2015/12/31

FOUJITA

2015.12.13

 監督・脚本:小栗康平
 出演:オダギリジョー、中谷美紀 、アナ・ジラルド、マリー・クレメール

 寡作ゆえ小栗康平監督の名は意識から消えていたが、10年ぶりの新作公開を知った際は、久しぶりに「昭和」という時代を体感できることへの、言い知れぬ高揚感があった。
 フランス語表記FOUJITA:藤田嗣治(つぐはる)という画家は、パリ・モンマルトル(異国人との融合から刺激を生み出した「芸術の都」)に最も馴染んだ日本人で、内証的とされる日本人的指向を打ち破った作品群は、芸術家のアイデンティティーを獲得した表現だったと言えるかも知れない。
 しかしパリで獲得した「狂気」は帰国後、祖国の「戦いから引けない狂気」にすり替えられ、ラスト前で三途の川に沈む『アッツ島玉砕』の制作へと追い込まれる。
 戦後、第二の故郷として焦がれるパリに戻るも、「今さら何を?」の扱いによる傷心から描いた教会の壁画には、時代への恨みと、それを乗り越えようとする祈りが込められている。
 絶望の淵にありながらも、時代と対峙する手段は絵筆の表現に限られる画家の、光を求める祈りが感じ取れたことは、本作の制作意図が伝わってきたということではないか。
 「遅れてきた昭和の名匠」とスクリーンでの再会を期待するも、それも祈る時節となってしまったのだろうか……

2015/07/27

海街diary

2015.07.19

 監督・脚本:是枝裕和
 出演:綾瀬はるか、長澤まさみ、夏帆、広瀬すず、大竹しのぶ、樹木希林

 これまでも家族のあり方をテーマにしてきた是枝監督は、本作では身近に感じられる題材を「寓話的」な切り口から問いかけてくる(原作は漫画作品)。
 「家族の形は不定形」を主題ととらえると、それは小津安二郎監督が繰り返しテーマとした「家族崩壊の危惧」に対する、現在からの返答ではないかと感じる面がある。
 現在の社会には、理解しがたい社会道徳や倫理の乱れが身近に出現し、これまでの規範や経験では対処できない事象が溢れるため、以前とは異なる危惧が迫っている。
 感情に走った両親(離縁・子供たちと別居)を恨む主人公だが、道を外れた感情を抱きながらも岐路では、「自分の感情」でなく「家族+腹違いの妹との絆」を選択する。
 義姉妹で心情が違うのは当然ながらも(長女は父を、義妹は母を恨む)、心の接点を見いだせば「姉妹」になれるはずと、「家族ごっこ」から「家族再生」を目指していく。
 『誰も知らない:2004年』の子供たちはここまで成長しました、の見方はあっても、「何も変わらない」状況においては、小津さんのように「若者を信じるしかない」と託す気持ちが込められるように感じた。

 役どころをきっちりこなす綾瀬はるかの姿には、この先への期待感を抱けた。
 当初は不安も感じたNHK大河ドラマ『八重の桜』が、肥やしとなったのではないか。
 姉妹の中で長身が際立つ長澤まさみは個性の表現と思うが、本作のような役に限定されそうな幅の狭さを感じた。
 夏帆の役柄は漫画的キャラクターが過ぎ、演出も彼女も表現未満の印象を受ける。
 アクション担当の広瀬すずはサッカー上手そう! に見せる、肝を押さえた演出は見事で、本当に上手ならば彼女をほめたい。
 だが、彼女への細かなポーズ要求に見えたシーンは、監督が自分の娘に向けるような親心とも感じられるが、彼女からのリターンパスは届かなかった気がする。
 それは世代間のギャップであり、「いつか分かって欲しい…」の期待感なのだろう。

 樹木希林のコメント「声をかければ、みな馳せ参じるような監督になられて…」(脇役はガッチリ固まっている)のように、現在の日本映画界で最も恵まれた監督が「家族のあり方」を描き続ける思いや、若者に希望をどう伝えるべきか?
 そんなチャレンジと感じられた本作は、とても大切な作品に感じられた。