2013/10/14

風立ちぬ

2013.9.15

原作・脚本・監督:宮崎駿
音楽:久石譲
声の出演:庵野秀明、瀧本美織

 宮崎さんの卒業制作らしい「物づくりの現場」に向けた、「夢は実現するもの」という本田宗一郎のメッセージのようである。

 物語の中で多々登場する「美しい」の表現には、完璧という願望が込められているが、「飛行機は完璧でなければ飛べない」との意味らしい。
 日本の飛行機開発は「落ちて当たり前」という状況から、独自に研究を進めてきた経緯には驚いたが、落ちることに慣れた現場の「負け犬的な空気」を、決して暗く描かないところに宮崎さんの本意が感じられる。

 夢のシーンの多さは、第一次世界大戦などの経験から、当時の日本は技術不足を自覚していたことの表現なのだろう。
 一般的なドラマでは、「プロジェクトX」的な成功への道を描きたくなるが、宮崎さんは空へのロマンと、恋愛という抽象的なストーリーを選択する。
 しかし、菜穂子との出会いは「美しく」表現できていただろうか。
 大震災で波打つ家屋の表現は見事でも、人や物の動きに比べて心の動きというものは、その何百倍も波打っていたのではあるまいか?

 ここに描かれているのは宮崎駿本人の「夢」であるために、その思いは個人的なロマンの限界を超えられなかった印象がある。

 決して成功作とは思えないが、宮崎さんの本音を、堀越二郎の姿を借りて表現した作業は卒業制作にふさわしい作品と思える。