2016/01/18

母と暮せば

2016.1.4

 監督:山田洋次
 脚本:山田洋次、平松恵美子
 原案:井上ひさし
 音楽:坂本龍一
 出演:吉永小百合、二宮和也、黒木華(はる)、浅野忠信

 作家 井上ひさし(2010年没)が、広島を舞台とした戯曲『父と暮せば』の対となる、長崎が舞台の物語を構想するもかなわなかった思いを、山田洋次監督が受け継いだ作品。
 2004年黒木和雄監督の映画『父と暮せば(リンク先はYouTube予告編)』では、父(原田芳雄)の亡霊が娘(宮沢りえ)を見守ったが、本作(リンク先はYouTube予告編)では息子(二宮和也)の亡霊が母(吉永小百合)に寄り添う。
 母を主人公とすれば情緒に訴えられるとの狙いは山田監督らしく、立体視が可能と思える両監督が描いた「二発の原爆」を受けた当時の日本人は、亡霊とともに生きていたのかも知れない、との痛みが伝わってくる。
 本作は、昭和の名匠とされる作家たちが取り組んできた反戦・反原爆の訴えを、どうすれば山田監督らしい後押しができるか、の思いから生まれたのではないか(オリジナルにこだわらない意思を感じる)。
 吉永さんの代名詞『夢千代日記』の「運命を背負う姿」、黒木監督『TOMORROW 明日:原作 井上光晴』に登場する長崎市電、『父と暮せば』で宮沢りえと結ばれる浅野忠信を、本作でも黒木華の婚約者に起用するなど、これまでの各人の活動をリスペクトするかのように次々と盛り込む姿勢に、山田監督らしからぬ覚悟のようなものを感じる。
 これまで、戦争を経験した監督たちの「これを撮らずに死ねるか!」の痛切な思いを受け止めてきたつもりだが、体験者が不在となるこれからの時代はどうなってしまうのか?

 井上ひさしの「ヒロシマ」「ナガサキ」「オキナワ」をテーマとした「三部作」構想は未完の幕引きとなった。
 本土人(ヤマトー)が何度も描いた『ひめゆりの塔』では物足りない、沖縄人(ウチナー)の心に響く物語を作りたかったに違いないと思う反面、戦争を描き切ることなど誰にもできない、とも……

 音楽(坂本龍一)もしっかりとした、とても映画らしい作品である。