2016/06/20

海よりもまだ深く

2016.6.11

 監督・脚本:是枝裕和
 出演:阿部寛、真木よう子、小林聡美、リリー・フランキー、樹木希林

 本タイトルは、テレサ・テンが歌う「別れの予感(YouTube):海よりもまだ深く 空よりもまだ青く あなたをこれ以上 愛するなんて 私にはできない……」 によるらしいが、観る者には「父母の恩は山よりも高く海よりも深し」の、ストレートな表現として受け止められた。
 人生での様々なチャレンジは、思い通りにならないことが常であるが、その受け止め方も当人と親では異なるのも当然である。子の問題に関して親は反則を顧みずに行動を起こすのは、愛情を注ぐ対象のかけがえのなさを、確かめようとするためかも知れない。
 けたたましくもほほえましく描かれる母と姉の女の会話は、描かれない父と息子の言葉数の少なさを際立たせ、主人公が父の遺品である硯で墨をすりながら、姿勢を正そうとする意識には、父の背中を手本とすべく「親としての自覚」が芽生えたように見える。

 樹木希林さんには、自分の母をも想起させる普遍性が感じられ「演技を越えた存在」に思えてくる。阿部寛のダサいオヤジぶりの見事さに驚くが、男の外見には気の持ち方が出てしまうらしく、シャンとせねば! と思わされる。
 本作同様、昭和歌謡(ブルーライト・ヨコハマ)を題材とした『歩いても 歩いても:2008年』も、阿部寛、樹木希林の出演が強く印象に残るので、再見したくなった。
 是枝作品では繰り返しになるが、小津安二郎監督が危惧した「家族のあり方」を、現代に追い続ける作品には毎回刺激を受け、目を離せない数少ない監督と本作でも感じた。

2016/02/15

スター・ウォーズ/フォースの覚醒

2016.2.1

 監督:J・J・エイブラムス
 脚本:ローレンス・カスダン、J・J・エイブラムス、マイケル・アーント
 音楽:ジョン・ウィリアムズ
 出演:ハリソン・フォード、マーク・ハミル、キャリー・フィッシャー、デイジー・リドリー、ジョン・ボイエガ

 本作に接し、高校生時分に出会った第1作『スター・ウォーズ エピソード4/新たなる希望:1977年』に熱狂したわれわれは、「スター・ウォーズ世代」であることに気付かされたが、いまやオヤジ世代となった観客も、同窓会のような「還暦 スター・ウォーズ」を拍手で迎えたのではないか?(ハリソン・フォード 73歳、マーク・ハミル 64歳、キャリー・フィッシャー 59歳)
 若かりし彼らが躍動したエピソード4〜6の後日談を同じ出演者で焼き直し、「歴史が繰り返す時の流れ」を表現するためには、38年という時間が必要だったようだ。
 「あなた(伝説の)ハン・ソロなの?」と問われ、「昔の話しだ…」と答えるハリソン・フォードの顔に、深いしわを刻み込んだ時間は、観る側が過ごしてきた時間の長さと等しく、年代は違っても同窓生のような「時の流れの共有感」に気付いた瞬間には、グッとくるものがあった。そんなアプローチをした作品があっただろうか?
 第1作のルークが、次作でオビ=ワン・ケノービ(アレック・ギネス)のような「師」となる(であろう)までの年月を、自身で「a long time ago…」と振り返っても青臭さしか感じないが、いつ見失ったかも覚えていない「未来を見つめる目」が、そこには確かに存在していた。そんな思いをたぐり寄せられれば老骨にムチ打てるはずと、自身のフォース(?)を覚醒させねば……

 ミレニアム・ファルコンの低空飛行の臨場感は見事。これまでのお姫様的ヒロインではない、たくましいデイジー・リドリーが次作で一層輝くことを楽しみに。
 ジョージ・ルーカスは断念するも、ルーカスフィルムを買収したウォルト・ディズニーによる新シリーズは、スター・ウォーズの世界観を客観視している(多くのフリークスタッフのアイディアが詰まっている)ようで、最終シリーズにふさわしい取り組みと感じられた。

2016/01/18

母と暮せば

2016.1.4

 監督:山田洋次
 脚本:山田洋次、平松恵美子
 原案:井上ひさし
 音楽:坂本龍一
 出演:吉永小百合、二宮和也、黒木華(はる)、浅野忠信

 作家 井上ひさし(2010年没)が、広島を舞台とした戯曲『父と暮せば』の対となる、長崎が舞台の物語を構想するもかなわなかった思いを、山田洋次監督が受け継いだ作品。
 2004年黒木和雄監督の映画『父と暮せば(リンク先はYouTube予告編)』では、父(原田芳雄)の亡霊が娘(宮沢りえ)を見守ったが、本作(リンク先はYouTube予告編)では息子(二宮和也)の亡霊が母(吉永小百合)に寄り添う。
 母を主人公とすれば情緒に訴えられるとの狙いは山田監督らしく、立体視が可能と思える両監督が描いた「二発の原爆」を受けた当時の日本人は、亡霊とともに生きていたのかも知れない、との痛みが伝わってくる。
 本作は、昭和の名匠とされる作家たちが取り組んできた反戦・反原爆の訴えを、どうすれば山田監督らしい後押しができるか、の思いから生まれたのではないか(オリジナルにこだわらない意思を感じる)。
 吉永さんの代名詞『夢千代日記』の「運命を背負う姿」、黒木監督『TOMORROW 明日:原作 井上光晴』に登場する長崎市電、『父と暮せば』で宮沢りえと結ばれる浅野忠信を、本作でも黒木華の婚約者に起用するなど、これまでの各人の活動をリスペクトするかのように次々と盛り込む姿勢に、山田監督らしからぬ覚悟のようなものを感じる。
 これまで、戦争を経験した監督たちの「これを撮らずに死ねるか!」の痛切な思いを受け止めてきたつもりだが、体験者が不在となるこれからの時代はどうなってしまうのか?

 井上ひさしの「ヒロシマ」「ナガサキ」「オキナワ」をテーマとした「三部作」構想は未完の幕引きとなった。
 本土人(ヤマトー)が何度も描いた『ひめゆりの塔』では物足りない、沖縄人(ウチナー)の心に響く物語を作りたかったに違いないと思う反面、戦争を描き切ることなど誰にもできない、とも……

 音楽(坂本龍一)もしっかりとした、とても映画らしい作品である。