2011/07/20

大鹿村騒動記

2011.7.18

 企画・監督:阪本順治
 脚本:荒井晴彦
 出演:原田芳雄、大楠道代、岸部一徳、石橋蓮司


 原田芳雄が天上へと旅立っていった。

 自分が日本映画(いや映画自体)と向き合い始めた高校時代、そのスクリーンで躍動していたのは「薄汚く、粗暴で、欲望のままに暴れ回る」原田芳雄の姿であった(『竜馬暗殺』『祭りの準備』)。
 おっかなくて近づけないが、心根は隠せず(目元はとても優しい)、ユーモアに満ちたその姿が「ズドン!」と心に突き刺さったことは忘れようもない。
 それ以来、彼の追っかけでなくとも、マイナー(ATG映画等)な作品への関心が高まり、彼の出演作にも関心が向くこととなる。

 リアルタイムで観た、アングラ(マイナー)映画のひとつの頂点と思える『ツィゴイネルワイゼン』(鈴木清順監督:1980年)での、「そんな人物像は成立するものか?」と酔わされた衝撃は、今でも鮮明に思い浮かぶ。
 さまざまな格闘の積み重ねから、『父と暮せば』(黒木和雄監督:2004年)の演技には「人生の機微を演じる役者」の貫録が感じられ、「アウトロー」役出身者だから醸し出せる、年齢+αの包容力ある懐の深い演技を、これからも見せてもらいたいと期待していたのだが……

 数年前の大病から復帰したものの、趣味である鉄道関連のテーマでもTV「タモリ俱楽部」に出演がなくなったことから(以前は息子を連れて出演)、「残された時間は映画のために」の思いがうかがえる。

 本作の宣伝で「原田芳雄主演!」とうたっており、それを「なぜ? と感じた者は全員観に来い!」の告知と感じ、慌てて公開3日目に足を運んだ。
 一週間前のプレミア試写会に、憔悴(しょうすい)した体を無理押しして車いすで登壇した姿に息を呑み、応援したい思いで足を運んだが、その翌日悲報を耳にすることとなった。

 本作は原田芳雄の企画のようで、これまで現場を共にした監督たち(多くの方が旅立たれた)の中で、『どついたるねん』(1989年)から現場を共にしてきた阪本順治監督(現在最も信用できるとの意志ととらえる)に託される。
 その判断が、キャストの顔ぶれを見るだけで、原田や観客の期待を高める「現場」を生み出すこととなる。
 ATG映画時代からの盟友石橋蓮司、二人の再共演が観たかった『ツィゴイネルワイゼン』の大楠道代(大げさな照れのしぐさは年をとっても絵になる)、三國連太郎は近ごろ作品を吟味していそう、岸辺一徳はバッチリ! 等々。
 その見事さを考えると、監督は原田の覚悟まで心に秘めていたのではないか、と思えてくる。
 原田が満足できる現場を、仲間たちが囲んで「ともに楽しんだ」様子がうかがえる作品であり、本作を遺作にできた彼はある意味「幸せな役者」と言えるのかも知れない。

 本作のラストに原田芳雄が「アレ?」と空を見上げた瞬間、それは「天国からの声ではない!」と叫ぼうとした、わたしの心の声は届かなかった……

 ありがとうございました。