2009/09/14

九月に降る風

2009.9.8

 監督・脚本:トム・リン(林書宇)
 出演:リディアン・ヴォーン(鳳小岳)、チャン・チエ(張捷)、ジェニファー・チュウ(初家晴)

 本作は、台湾の悪ガキ高校生グループの青春群像を描いた物語になります。
 予備知識は皆無の状態で、『風櫃(フンクイ)の少年』(ホウ・シャオシェン:候孝賢 1983年)に通じる雰囲気だけをイメージして足を運びました。

 心の痛さがとても響いてくる台湾の青春映画に引かれるのは、日本占領下(1895年(明治28年)下関条約による台湾の日本割譲〜第二次世界大戦まで)での文化の押しつけが、現在も接点とされる親近感ではなく、東アジアの島国という環境・歴史に根付く「島国文化」という共通点を、実感できる面にあると思われます。
 そこには、わたしたちの暮らす国が、これまで行ってきた行為に対する反省から感じる「痛さ」が含まれますし、忘れつつある島国特有の「おおらかさ」を思い出させてくれるような「刺激」が含まれるようにも思われます。
 ──同じ隣国である、韓国、中国には「むき出しの反日感情」が存在することを理解しているので、こちらにも一応身構える姿勢が必要になります。しかし、台湾には「好日的」と言える空気があることを感じる度、自らの意志によって「反省すべき」という気持ちがわき上がってきます。それを、島国の連帯感と考えたいと思ったりします。

 本作の舞台は1996年、台湾新竹(IT企業が集まる「台湾のシリコンバレー」と呼ばれる町)で、当時の台湾プロ野球界を揺るがせた八百長事件を背景にして描かれます。
 劇中に登場する元プロ野球選手で、八百長事件で追放される廖敏雄(リャオ・ミンシュン 本人が登場)は現在、高校野球の監督として野球に情熱を注いでいるそうです。
 九月は台湾の新学期にあたります。
 高校卒業の時にしか感じることのできない、社会に踏み出す者への洗礼のように降る「新しい風」と、ダーティーとされながらも心の中で生き続けているヒーローに、スカッとホームランされることにより、主人公は後押しを受けます。道を踏み外した者にも、夢を追い続けることは可能であると……
 痛みを知った者同士が、尻をたたき合いながら再スタートする姿を、見守ろうとするおおらかな視線のあることが、観る者にも救いと感じられるのではないでしょうか。

 露出が増えれば日本でも人気が出そうな、ジェニファー・チュウちゃんをヒロインに起用するあたりは、現代台湾映画の戦略傾向なのかも知れません。
 以前の『恋恋風塵』等では、イモ姉ちゃん(大変失礼! シン・シューフェンの大ファンでした)たちの素朴さを、しみじみかみしめたものでした……
 そんな思いもよみがえってきたのですから、本作を観たかいがあったというものです。

 劇中に『恋恋風塵(れんれんふうじん)』(ホウ・シャオシェン 1987年)の映像が使われていて、一気にタイムスリップした気分にさせられ、『悲情城市』(ホウ・シャオシェン 1989年)、『牯嶺街(クーリンチェ)少年殺人事件』(エドワード・ヤン:楊徳昌 1991年)の世界がよみがえってきました。
 確かに描かれる時代背景は違うのですが、伝わってくる「痛み」の空気感というか、映画の肌触りから感じられる台湾らしさというものは、変わっていないように思われました。

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