監督:山田洋次
脚本:山田洋次、平松恵美子
原作:中島京子
音楽:久石譲
出演:黒木華、倍賞千恵子、松たか子、吉岡秀隆、妻夫木聡
原作の設定としても、戦前という時代背景に昭和モダンの象徴として洋風建築の「小さいおうち」を据えた舞台設定こそが、本作成功の重要なキーと思えた。
前作『東京家族』は小津安二郎監督へのオマージュであるも、両監督間にある大きな溝を再認識するものとなった。
前作とは無関係に見える本作だが、小津さんが生きた時代を描くためか、小津作品を手本としたようなセリフ回しに聞こえるにつれ、作家の精神というものが重なるような思いが高まってくる。
山田監督と共同脚本の平松氏にとって、昭和モダンのイメージ=小津安二郎だったのではないかと思え、ドラマの起伏を作りたがる監督に「忍ぶ物語」を作らせたのは、小津さんの生き様が影響したのではないか、と思いたくなる。
小津さんが描いた様々な「昭和モダン」は庶民のあこがれであっても、その視点には「ひがみ」「ねたみ」も込められていた。
一方の山田監督は、それを「ありがたく、楽しげに」描くと共に、当時の国民は「国威発情」に積極的ではなかったとアピールするモデルを、小津さんの姿に重ねたのではあるまいか?
生きる時代が違うため同じテーマ設定は難しいこともあり、戦争の時代を生きた人物の思いを回想して終わる物語には、監督の「小津のオヤジはきっとこう生きたのでは?」の思いが込めらているように感じ、小津監督へのアンサーとなる成功作と思う。
ベルリン国際映画祭で主演女優賞を受賞した、黒木華(はる)の抑えめの演技は時代を表現し心地よく、唯一のアクション(自主的行動)で存在感を発揮する姿は、当時の女性表現には的確な演出と思われとても引かれた。
好きではなかった松たか子に注目できたのは、ただ「奔放に生きる」のではなく、理性を持ちながら本能と葛藤する女性を演じたことによるのだろう(当時の人々もみな人生を謳歌しようとしていたはず)。
妻夫木聡の若者が「学んだ歴史観」と、倍賞さんが当時「体験」したギャップから史実を立体視することは重要で、語り部側の記憶(人物)が失われるというテーマは、いつの時代にも共通する問題だが、現実に直面する時を迎えつつある……
倍賞さんと山田監督はまさに「家族同様」らしく、楽しそうな倍賞さんを目にできたことがとてもうれしく、もっともっと観せてもらいたい!
久石譲の音楽は、倍賞さんが声で出演した『ハウルの動く城』へのオマージュのように聴こえ(似てると感じ)、何ともチャーミング!