2013/02/19

東京家族

2013.2.10

 監督:山田洋次
 脚本:山田洋次、平松恵美子
 音楽:久石譲
 出演:橋爪功、吉行和子、西村雅彦、夏川結衣、中嶋朋子、林家正蔵、妻夫木聡、蒼井優

 デビュー当時の山田洋次監督は受け入れられなかったという小津作品を、リメークではなく「オマージュ:賛辞」をテーマに取り組んだ姿勢に、監督の「総括:けじめ」の意志が感じられた。

 世界的に愛され続ける『東京物語:1953年』をいま手がける姿勢には、キッチリと「山田洋次的視点」が込められており、さすが老いても「日本のエース」の貫録がある。
 当時とは画面サイズが違う横長の画面であるが、意識的に小津作品のような引いたローアングルから絵を切り取り、間口の狭い現代家屋の窮屈さを際立たせている。
 4:3のスタンダードサイズで撮られた小津作品は、全編「奥行き」が意識されている(再見後のコメント)。

 しかし「小津ポジション」とされるローアングルを意識するも、サラッとこなされた感があり、深みを求める方がやぼとの開き直りに感じられる。
 そこには、山田洋次が目指す「生身のぶつかり合いから生まれるドラマ」(彼の演出にも制約が多いと感じるが)と、小津安二郎が構築した「作られた物語の役割を求める」姿勢との違いが明確に表れており、本作の製作動機とも感じられる。
 旧作では戦後の傷跡を描いたのに対し、本作では大震災に触れようとする意欲は理解できるし、旧作の香川京子さんの役割である若さに希望を託す時間軸を、地域の絆への希望となる横軸の表現者である隣人に託した手腕には、山田洋次カラーが見て取れ納得させられる(ズルイと感じさせるのがこの人のカラー)。

 セリフが小津作品のままと思われる場面よりも、ラスト近くで蒼井優が現代の若者らしく率直に語る口元に、原節子さんの口の動きが見えた一瞬に目が止まる。
 錯覚であれ、どちらも観客のこころをつかむ名シーン・演技であるからこそ、観客に記憶のかなたからオリジナルの記憶を呼び起こし、シンクロさせようとする意識を喚起させたのだろう。本作の狙いが見事に成功した場面である。
 役者は皆さん素晴らしかったが、笠智衆さんの「短歌を詠むような」セリフの美しさは、いまの時代に求めること自体無理なのかも知れない……


 後日、『東京物語』のレンタル再見で感じたのは、本作は「レンタルの機会しか無いが『東京物語』を見て下さい」との壮大な宣伝だったのか? というもので、山田洋次には最初から小津さんに挑む気持ちなど無いことが見えてくる。
 作品を比較することは、当時の人々と現代のわれわれでは、どちらが幸せか? とするようなもので、答えなど存在しない。
 しかし再見した『東京物語』の丁寧な作りからは、作り手が「いい物を作り」、それを観客が「よかったねぇ」と楽しめる「質が豊かな時代」であったことが想像され、うらやましさを押さえられない……


※本ページは、スパムメールのターゲットとされたため、コメントの書き込み不可としました。