2012.5.27
監督・脚本:原田眞人
出演:役所広司、樹木希林、宮崎あおい、南果歩、キムラ緑子、ミムラ
これだけの役者陣をそろえて取り組む作品であり、普遍的テーマを描こうとする姿勢は伝わるが、舞台が昭和(希望のある)時代であることに「ねたみ」のような感情を覚えるのは、現在を悲観しすぎているか。
涙はとめどなく流れるも、後に残らない物足りなさがある。
ネタの羅列はあっても「調和が取れてない」印象からと感じる。
役所広司が前面に出るのは当然でも、樹木希林と孫たちとの場面(ふれあいの場:宮崎あおいとの描写は説明的過ぎる)が物足りないため、彼女の人格を理解するのは役所だけという構図が、母親の独りよがりに見えてしまう。
はなから娘たちを相手にしない母親と、長男の母への思いの強さは理解できるところだが……(長男を頼りにする母親像は『歩いても歩いても』2008年:是枝裕和監督作品で演じている)
原作は読んでないが、原作者(井上靖)の思い入れがとても強いと思われる作品に、監督以下スタッフが従順すぎたのではあるまいか。
「母が壊れていく」をテーマとしながら、親子・親族間の描き方が感情に頼りすぎた印象があるも、樹木希林が演じるゆえに成立する物語であり、観客が『東京物語』(1953年:小津安二郎監督)を求めるのは間違いなのは分かる。
しかし本作の失敗は、樹木希林さんに演技要求ができなかったことではないか。
例えとして正しいか分からないが、映画『八月の狂詩曲』(1991年:黒澤明監督)ラストの足元に及ばぬ、見せ場とならない状況を経ただけで、息子に背負われたくない(と思ったか?)欲求不満そうな表情に見えてしまう。
彼女が「当たり前:自然すぎる」と感じてしまうのは褒め言葉でなく、演出が彼女から新たな面を引き出すことをせず「○○的な演技で」を要求したからではあるまいか?
演技賞候補の筆頭には違いないが、それゆえもっと驚かせて欲しいとの思いが残る。
宮崎あおいは、相変わらず表情の見せ方が上手と感心させられるも、その先を引き出せなかったのは演出の責任。
南果歩ちゃんとミムラの「梅ちゃん先生」コンビは、役柄をわきまえ光っているので、これから活躍の場が広がるよう応援したい。
泣かせばいいってもんじゃない映画の典型であり、実にもったいない出来という印象が残る。