2010/03/01

おとうと

2010.02.21

 監督:山田洋次
 脚本:山田洋次、平松恵美子
 出演:吉永小百合、笑福亭鶴瓶

 監督が、これで鶴瓶をコントロールしていたと考えたなら、ちょっと違うような印象を受けました(かなりはみ出している気がします──何が?)。
 テレビの鶴瓶(遠慮があるんだろうか? 「家族に乾杯」「ブラックジャックによろしく」等)は好きなんですが、映画の彼には関西芸人の性分というのか、「いやらしさ、えぐさまで見せたろ」という下心まで見える気がして、どうも箸がすすみません(昨年評価が高かった『ディア・ドクター』でも、鶴瓶の素が見え隠れした気がしてダメでした)。
 演技者の顔ではなく、芸人の素(本気でやるでぇ)が見えた気がしてなりません(むかしのビートたけしの「狂気性」にも関心は無いので、役者ならば、人を楽しませ引きつける芸であって欲しいと思っています)。

 山田洋次さんの「若手育成に取り組む」との話しは、少し前に聞いていましたが、どうも本作からは、「若手の習作」をロートルたちがサポートしている現場の様子が思い浮かんできます。
 山田組は(寅さんを含めて)段取り芝居ですから、そのおさらいを若手たちに実践させているようにも受け止められました(でも現場での山田さんは、見守ることも我慢できなかったのではあるまいか)。
 ならば、その段取りストーリーの完成度を感じさせて欲しいと思うのですが、結局鶴瓶の散らかし放題を、吉永さんが尻ぬぐいに回るばかりが印象に残ります(ストーリーだけではなく、映画自体の空気も)。蒼井優ちゃんも素材以上の演技は求められていない気がしました。
 前作である『母べえ』(決して明るい話しではない)が、先日テレビ放映されたのをチラッと見たのですが、面白くてしばらくチャンネル変えられなかった印象が、本作への期待外れにつながったのかも知れません。

 エンドロールに「市川崑監督作品『おとうと』(1960年)に捧ぐ」とあり、とてもいい作品との印象を持ちながらも内容が薄れていたので再見したところ、その素晴らしさに本作の陰までも見失いました。
 テーマ設定は共に「家族の再生」であっても、時代背景や作劇での狙いどころは違いますから、比べられるものではありませんが、旧作の岸恵子さんの「烈」が見事に花咲かせたのに対して、「忍」がはまる吉永小百合さんを、より押しこめようとしたため、不完全燃焼に終わってしまった印象を受けます。
 関西で育った女性の気性を、吉永さんに求めるのは無理なのかも知れませんが、そんなこと以上に、演出が彼女を縛っていた気がしてなりません(他の出演者にも言えるのではあるまいか)。

 前作では、吉永さんの思い通りの自由な演技と思える姿から、とても好印象を受けたのですが、監督はそれが気に入らなかったのだろうか?(吉永さん、少し顔が変わったような印象を受けました)。