2009/02/18

悲夢

2009.2.12

 監督:キム・ギドク
 出演:オダギリ ジョー、イ・ナヨン

 この監督、時折儒教的なエピソードを差し込んでくると言うか、東洋思想に立脚した創作活動をしている人で、見方によっては説教臭く感じるかも知れませんが、わたしは心地良く鑑賞できるので、韓流ブーム以降では韓国唯一の要チェック人物としています。
 本作では儒教(孔子を始祖とする教えで、五常(仁、義、礼、智、信)に尽くすことで、五倫(父子、君臣、夫婦、長幼、朋友)を得るとする道徳観念)ではなく、荘子(そうじ)の思想の代表的な説話である「胡蝶の夢」(夢の中で蝶として楽しんだところで夢が覚める。さて、夢を見て蝶になったのか、あるいは蝶が夢を見て自身となっているのか)をモチーフにしているとのこと。
 荘子は孔子に批判的という印象もありますが、ルーツを否定するものではないと思われます。
 ──映画の感想文なんだから、別に説明しなくてもいいのにね……

 自分の見た夢が、悲劇という形で現実に起きてしまったら、気持ち悪いというか、少なからず罪悪感を覚えてしまうのではないでしょうか。
 潜在意識にあるとは言え、就寝時に見る夢をコントロールできない生き物に潜んでいる、ひとつの凶暴さの表れと言えるのかも知れません。
 しかし本作では、戒めというよりも悲劇に突き進むベクトルへの力が強すぎた印象がありました。

 この監督の東洋思想へのこだわりと、現実の不条理に向けられた視線というものは、ひょっとすると「東洋のシェークスピア」的な作家になるかも知れない、と思ったりします。
 不信心な日本人には、望むべくもない期待ですが……