2007/08/07

夕凪の街 桜の国

2007.07.28 夕凪の街 桜の国

 監督:佐々部清
 出演:麻生久美子、田中麗奈、藤村志保、堺正章

 志は素晴らしいと思うのだが、それが結実したかと問われると、首をかしげてしまいます。
 原爆の話しを受け継いでいくことはとても大切なことで、銭湯で火傷を負った人たちばかりであることを示したり、「みんなどうしていいか分からなかった」という、当事者の主観的な心情の表現にも訴える力があると思う。
 原爆の影響は遺伝子にまで及び、それは被害者一族が絶滅するまで広がり続ける、ということがテーマだと思われるが、観客は思い入れしにくかったのではないかと思う。
 それは、殺しても死なないであろう(この文章中においては失言ですね)象徴としての田中麗奈が放つ生命力が強すぎたからではないか、と思うからである。
 物語が進むにつれて「わたしは一人きりになったとしても、絶対に生き残ってやるんだ!」との強い意志を持つ、田中麗奈の存在が引き立っていくべきだと思うのだが、彼女の登場シーンから既にテーマよりも何よりも「なっちゃん自身が放っている生命力」の方が勝ってしまったいた、と思えて仕方ないのです。
 ──この監督下手だよ! ストーリーをなぞっているだけという印象ばかりが残っていますもの。

 麻生久美子の時代に緩衝材的存在を設定して、現代の父親ではない存在に物語の道先案内を任せるとか(父だから言えない事など何もないと、あからさまに全部説明されており、心の動きを感じさせなかったので)、田中麗奈が現在において何か悩みを抱えているくらいの陰を与えないと、あまりにストレート過ぎて「提出前日にやっつけで書いた夏休みの宿題」のように見えてしまうと思います。

 「殺しても死なない」個性派俳優としてなら、田中麗奈は結構いい線いけるかも、と思ってしまいました。
 確かに大人になって、キレイになってきたけど、ファニーフェイス(実に奇妙な顔立ち)には違いなく、これから使われるかも、と言うか観てみたい気がしてきました。
 ──どうも最近、若手女優への評価が変わってきているのは、趣味が変わってきたということなのか? より、オッサン化が進んだのか?

サイドカーに犬

2007.07.21 サイドカーに犬

 監督:根岸吉太郎
 出演:竹内結子、松本花奈、古田新太

 乳歯が抜ける時分(小学四年)の少女が出会った不思議な父の愛人とのひと夏の経験。
 何もかもが幻のようにあっけない時間だったが、そんな刹那に少女は自転車に乗れるようになった。ちょっと遅かったけど、乗れるようになったその夏を振り返ると、キラキラと輝いていたその女性が目に浮かんでくる。
 少女が自我に目覚めるのは、初潮よりも前の変調であるところに早熟化の傾向を見つめる視点がいいと思います(でも変化には、血の印象はつきまとってしまうのか?)

 夜のサイドカーのシーンには、70〜80年代のけだるくも決して後ろ向きではない時代の空気が漂っており、根岸監督のデビュー時代でもあったりするのだが、何であの頃の空気を出せる人は何でみな日活出身なんだろうと思ってしまいました。(神代辰巳、藤田敏八←漢字忘れちゃったよ、情けない… 時は過ぎてゆくー♪)

 竹内結子を初めていいと思いました。
 可愛い子ちゃん、人気女優として扱わなくてよくなった時期の公開だったのもタイミングとして良かったと思われます(髪の毛長かったから、出産前に撮ったのか?)。
 媚びた演技をしてないと言うか、監督が要求していないので彼女も伸び伸びと動けたのではないか、という気がしました。
 先日の松嶋菜々子への驚きと同様、いい女優がいないんじゃなくて、いい女に魅せられる演出家がいないということか、と目から鱗の思いがしました。
 こういう、身近な物語が少なくなってしまいましたね……